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インド・ニューデリーのジャワーハルラール・ネルー大にて国際関係を学んでいた留学生の記録。
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金曜日の授業は3コマ。朝9:30から夕方5:30までみっちりになるはずなのだが、実際に3コマの授業がすべて実施されたことは今セメスターに入ってから1度もない。

その最たる原因は、1コマ目の授業の教員が授業をめったに行わないことにある。週2コマの設定だが、今週水曜日は教授のテレビ出演のため休講、金曜は出張中のため休講。ちなみに、水曜のテレビ出演に関して、学生には収録の観覧席に加わるように求めるメールが来ており、一部の学生はそれに応じて参加したとのことであった。だが、自分はそのことをあとになって聞かされた。どうやら、ヒンディー語での収録番組であったため、ヒンディー語を解さない私をそのような収録の「埋め草」に使うのは良くないという気遣いであった。参加した学生がいやいやであったのに対し、関心を有する自分が呼ばれなかったのは皮肉としか言いようがない。

ただし、その教員は授業ではなく個人的なコンタクトを通じて指導する方針で、決して教育をおろそかにしているわけではない。学生が教員の研究室や自宅を訪ねることに対しては常にウェルカムな態度であり、教員にとっては指導学生とのアポイントメントが最優先だ、と常日頃述べている。実際にその教員の下で学位論文執筆中の学生が、濃密な指導を受けている様子が伺える。学生がその教員の研究室に居座って論文を執筆しているのだ。コンピュータがないから、という理由ではない。こまめに指導を仰ぎながら、怠けることなく執筆をすすめるためだという。今日も研究室を訪ねると、教員は出張で不在であったが、学生がそこで教員のコンピュータを使って研究をしていた。

今日は2コマ目の授業が所属センター主催の研究会と重なったため、その授業も消滅し、結局1コマしか授業は行われなかった。

そこで、この記事の本題である、その研究会について。

報告者: Daniel Drache(York U., Canada)
テーマ: Defiant Publics and Neoliberalism's Five O'clock Shadow

ちなみに、「5時の影(five o'clock shadow)」とは、朝剃ったひげが夕方5時にはのびてうっすら影のように見えることを意味する慣用句である。


まず、報告者はヨーク大学(York University)の教授であるが、これはイギリスではなくカナダの大学である。イギリスにあるのは、York Universityではなく、University of York。まぎらわしい。

Drache教授は政治経済学をベースとして、現在は公共圏論を主に展開している。出版も多数。

全体を貫くテーマ、というよりもむしろ彼の主張は、グローバルなパブリックが実現しつつある、ということであった。なお、「パブリック(public)」という語には適切な訳語がないため、ここではそのままカタカナで。

Facebookのような「2.0」時代のテクノロジーが、パブリックのネットワーク化を可能にする。テレビやラジオなどの受信のみのメディアは違い、インターネット時代は発信を可能とした。そのような技術は急激に世界中に広まっている(例:携帯電話利用台数、インターネット利用人口)。中国の反日デモや、オバマ大統領の選挙運動、タイの空港占拠といった大規模な大衆の動員を可能にしたのはそのような技術だ。その結果、パブリックのパワーが増大している。とりわけこれまで周縁化されていた人々が連携して立場を表明する機会が増大した。というのが議論の大枠。

今回の報告を聞いた限りでは、主張を展開するにあたっての論理が不十分であるように思われた。たとえば、アメリカのブッシュ(子)政権とイギリスのブレア政権の支持率の変化のグラフを重ねあわせ、類似性を指摘し、そのことから国境を越えたパブリックの存在を裏付けようとしていたが、これはあまり適切な事例とは思えない。言うまでもなく、当時のアメリカとイギリスの政権支持率にとってはイラク情勢が最大の独立変数であり、それを共有している以上、支持率に類似性が現れるのは当然のこと。グローバルなパブリックの証明にはならない。

今回の報告タイトルは、近著Defiant Publicsと共通。おそらく著書では詳細な議論が展開されているのだろうが、報告では時間の制約からわかりやすそうな例を取り上げたのだろう。冗談半分ながら、著書の宣伝もしていた。

自分にとって、そして(後で話を交わしたところによると)他の出席者にとっても同様に興味深かったのは、今回の研究会を準備した側のJNUのある教員からの批判的なコメントであった。「それはインドでは起きていない。インドでは問題でない」といった具合。後でその教員とチャーイを飲みながら話を聞いた時には、「そんなに私のコメントは批判的に聞こえた?そんなつもりではなかったが」ととぼけていたが。テクノロジーがコミュニケーションを促すだけではなく、相反する側面もあるということを指摘したかっただけらしいのだが(たとえば携帯やネットを使うと、人と人の直接のやり取りが希薄になるということ)、そのコメントはかなり批判的に聞こえ、場の空気が若干冷たくなったように感じられた。
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自己紹介:
2008年7月から2010年5月まで、ジャワ―ハルラール・ネルー大学留学。
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