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インド・ニューデリーのジャワーハルラール・ネルー大にて国際関係を学んでいた留学生の記録。
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夏休み2ヶ月の日本滞在中に、いくつか印象に残った本との出会いがあった。その中の1冊がこれ。本屋で偶然にめぐり会えた。

福岡伸一『動的平衡―生命はなぜそこに宿るのか』(木楽舎、2009年)

目にとまった理由は、その帯。福岡先生の写真、はどうでもいい。

「読んだら世界がちがってみえる。」

これも別にどうということのないキャッチコピーだ。ありがち。そこではなく、推薦者の言葉が気になった。

「先生の本を読むと頭の中に一陣の涼風が吹きぬけるようだ」(内田樹)

「ゆったりと時が流れる不思議な読書体験を与えてくれる本だ」(竹内薫)

科学の本に対する評としては、おかしい。気になり、手にした。ちょっと目を通すと、評者の言う意味がわかった。たしかに、そのような感じがする。涼風。ゆったりとした時。的確な評だ。スマートな文章に心を奪われた。

自分が論文を書くとき、誤解を読み手に与えないことを意識する結果、冗長な文章を書く癖がある。また、論理構成をうまく表現できずに苦しむことが多々ある。そこで、文章の教材として、この本を買うことにした。

実際に読んでみると、内容も実に興味深い。さまざまな疑問に、広く認められている学説と、著者の仮説を交えて、説得的な説明が展開される。

たとえば、なぜ大人になると時間が早く過ぎるように感じるのか、というパズルがある。本書によると、その理由は、体内時計の基礎となる新陳代謝が加齢とともに遅くなるからだという。つまり、年をとると、新陳代謝が遅くなる。すると、新陳代謝の速度に基づいている体内時計も遅くなる。時計の針がゆっくり回るようになるというイメージ。仮に体内時計が半分の速度で進むとすると、現実1年間が経過したとき、まだ半年しか経っていないと感じられる。しかし現実には1年の時が進んでいるので、時間が早く経過してしまったように感じられる。(40~45ページ)

本書のタイトルである「動的平衡」の部分は特に印象的だ。

以下、引用。
生体を構成している分子は、すべて高速で分解され、食物として摂取した分子と置き換えられている。身体のあらゆる組織や細胞の中身はこうして常に作り変えられ、更新され続けているのである。

だから、私たちの身体は分子的な実体としては、数ヵ月前の自分とはまったく別物になっている。分子は環境からやってきて、一時、淀みとして私たちを作り出し、次の瞬間にはまた環境へと解き放たれていく。

つまり、環境は常に私たちの体の中を通り抜けている。いや「通り抜ける」という表現も正確ではない。なぜなら、そこには分子が「通り過ぎる」べき容れ物があったわけではなく、ここで容れ物と呼んでいる私たちの身体自体も「通り過ぎつつある」分子が、一時的に形作っているにすぎないからである。

つまり、そこにあるのは、流れそのものでしかない。その流れの中で、私たちの身体は変わりつつ、かろうじて一定の状態を保っている。その流れ自体が「生きている」ということなのである。シェーンハイマーは、この生命の特異的なありように「動的な平衡」という素敵な名前をつけた。

ここで私たちは改めて「生命とは何か?」という問いに答えることができる。「生命とは動的な平衡状態にあるシステムである」という回答である。

そして、ここにはもう一つ重要な啓示がある。それは可変的でサスティナブルを特徴とする生命というシステムは、その物質的構造基盤、つまり構成分子そのものに依存しているのではなく、その流れがもたらす「効果」であるということだ。生命現象とは構造ではなく「効果」なのである。(231~232ページ)
引用終わり。

身体は、流れる分子の一時の淀み。生命は、「動的な平衡」の生み出す「効果」。

もともとこれに近い生命観を持っていたので自分は受け入れられたが、他の人はどう思うだろうか。おそらく、すんなり受け入れられない人が多いだろう。でも、そんな人にこそ、この本を手に取ってもらいたいものだ。
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プロフィール
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toshi
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男性
自己紹介:
2008年7月から2010年5月まで、ジャワ―ハルラール・ネルー大学留学。
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